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✎理事長ブログ

旧いものが好き

2011-12-02
1953年型ポルシェ356カブリオレ
356カブリオレ内部
TRK339
TRK会誌-1970年
 昨日の朝、入所されていたSさんが眠るように亡くなった。104歳、明治41年生まれ、申年、私の父と同じ年である。この2年間、Sさんを回診する時、30年前に別れた父に触れるような気がして嬉しかった。娘さんに「おじいさんは、いろいろな病院、介護施設に入ってきたけれど、ここが一番気に入っていました。先生の処で最期を迎えられて喜んでいると思います。有難うございました。」と言っていただいた。私は、私の父には何も親孝行はできなかったけれど、この言葉を聞いて、天国の父に親孝行ができたような気がした。Sさん、感謝するのは私のほうである。父の写真をあらためて眺めてみた。
 私は旧いものが好きだ。辞典には「旧い」も「古い」も同じような意味が書いてある。しかし、私は、「旧交」が「昔から続いている関係」、「旧国」が「歴史の古い国」という意味が示すように、「旧いもの」とは、「昔から続いていて今も役立っているもの」を意味すると考えている。私の好きな「旧いもの」、それは、第一に、昔一生懸命働いて、今も私達を含めた家族を元気にしてくれる「施設のおじいちゃん、おばあちゃん」、第二に「クラシックポルシェ356」そして「テープレコーダーTRK339」。
 

 
 1953年、初めて、日本にポルシェが輸入された。たった4台のポルシェ356。あまりにも高価で、外貨の持ち出しが多くなるため、日本政府は翌年1954年から2年間自動車の輸入を禁じたという。今、私の手元には、私のお気に入り1953年ポルシェ356カブリオレがある。日本に輸入された最初のポルシェ4台の中の1台である。天気のいい時には、常磐道を走り回ったり、ラリーにも参加したり、57歳のクラシックポルシェはバリバリの現役で、私を元気にしてくれる。
 

 
 そして、もう一つのお気に入りは、TRK339テープレコーダー。私は、中学生の時からモーツアルト狂である。なぜそうなったのか理由は思い出せない、或る時、モーツアルトのイ短調のピアノソナタが頭の中に聴こえてきて、それ以来のモーツアルト狂いである。後に、小林秀雄を読んで「モーツアルトの疾走する悲しみ」という表現に感動したが、当時、中学生の私にそんなことが解った筈がない。とにかくモーツアルトが好きだった。痺れていた。嬉しい時も悲しい時も、モーツアルトを聞くと、自分を取り戻せるような気がした。モーツアルトなら何でも好きだが、一番のお気に入りは、K364のシンフォニアコンチェルタンテ、ヴァイオリンはアレクサンダーシュナイダーハンのものである。
 中学生の頃、NHKのラジオで、第一放送と第二放送を使った立体音楽堂という番組があった。ラジオを二台持ってきて、一台をNHK第一放送に合わせて左側に置き、別のラジオを第二放送に合わせて右側に置くと、ステレオ放送になるという仕組みである。私は、海外で演奏されたモーツアルトの音楽を録音するため、ステレオ(2チャンネル同時)録音できるテープレコーダーが欲しかったが、そんなテープレコーダーは放送局にあるアンペックスというメーカーのものだけであった。そんな時、東京にテープレコーダー研究会(TRK研究会)なる組織が存在し、その会に入会すれば、組み立て式の、放送局規格のテープレコーダーを頒布してくれる事を知った。高校1年の時である。一生懸命お金を貯めて、やっと手に入れたのがTRK339である。後で知ったのだが、それはアンペックスのデッドコピーである。サンザンクロウして手に入れた339(サン・サン・キュウ)であった。そのTRK339でFM放送(当時FMステレオ放送の実験が始まっていた)から、海外の音楽祭で演奏されたモーツアルトを録音するのがこの上ない楽しみであり、毎日、新聞からFM放送の番組表を切り抜いて取っておいてくれるように母(高校卒業の時に亡くなった)に頼んだものである。TRK339は母の思い出の一ページでもある。
 
 施設のおじいちゃん、おばあちゃん、ポルシェ356、TRK339、旧いものとの係りは、私の毎日を永遠の楽しみで満たしてくれる。私は旧いものが大好きだ。
 

平成23年12月2日 理事長
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