✎理事長ブログ
100歳まで幸福に生きる
2015-06-15
施設で100歳のおばあさんが亡くなった。亡くなる日まで、老眼鏡をかけて新聞を隅から隅まで読んでいた。私の回診の時には拝むように手を合わせて「もうすぐお暇しますから、それまで置いてください」と言うのが口癖だった。実は、私はそのおばあさんの姪にあたる章子さんという女性と中学校の同級生で席を並べていた。私が東北大学を卒業し医師になって間もない頃、その章子さんのお父さんから「章子が間もなく息を引き取る」と悲痛な電話が来た。話を聞くと、腎臓が悪くなって尿が出ないので利尿剤の点滴をしているが、この数日尿は全く出ず、点滴をすればするほど呼吸が苦しくなって、入院先の先生からは「今夜が山でしょう」と言われているとの事。当時、一般の病院には血液透析は普及しておらず、腎不全に対しては、利尿剤を投与するしかなかった。私は当時秋田大学の教官として秋田に赴任していたが、即座に、章子さんを入院先の病院から国立水戸病院に転院させるように手を回す一方で、秋田から水戸まで車を飛ばした。その日深夜、血液透析を開始して章子さんの命を助けることが出来た。透析の潅流液は小さな浴槽を使って看護師を指導して作り、血液透析を行うための血管の手術は一人でやった。大学では血液透析を研究し腎不全を治療していたが、大学以外で血液透析を行ったのは初めて、手術も自分一人でやったのは初めてであった。今からおよそ40年も前の事である。章子さんは血液透析をしながら生活され、その20年ぐらい後に透析の合併症で亡くなった。章子さんのおばあさんが私の回診の時に手を合わせる時、いつも40年前の出来事を思い出していた。
今から約50年前の昭和38年には100歳を超える人は全国で153人であったが、昭和56年に1000人を超え、平成26年9月時点では58,820人となった。こうした長寿者を支えてきたのが「医学の進歩」と「戦争のない平和で豊かな生活」である。医学の進歩は特にこの数年目覚ましく、様々な組織や臓器の細胞に分化できるips細胞を使って視神経細胞を作ることが成功しているし、これが実用化されれば、我が国の失明の大きな原因である緑内障を治すことが出来る。さらに、心臓や腎臓や肝臓などの臓器を作る細胞にまで応用されていけば、臓器移植も容易となり、いつまでも衰え知らずの身体を手に入れられるかも知れない。しかし、どんなに医学が進歩しても平和で豊かな生活が続かなければ長生きできない事もまた真である。
豊かな生活が続くかと言えば、日本は現時点で1000兆円という膨大な債務を抱えている。国民一人ひとりが1000万円借金している勘定だ。日本の国富(資産から負債を引いた国全体の正味資産)は2013年末で3050兆円(1ドル80円として約38兆ドル)であったが、それも最近の円安で約3分の2の26兆ドル(1ドル120円換算)になった。日本の経済規模は最近の政府日銀の金融政策によって3割以上小さくさせられた事になる。最近は株価の上昇も大きく、この5月の決算では企業の業績も上がり、税収が1兆円も増えたと報告されている。しかし、株価が上昇した企業を見るとミネビア、エプソンなど業績そのものが好調な企業であり、政府日銀が煽っている金融緩和や財政出勤の恩恵を受けるはずの金融や不動産関連のJトラストや大京は株価下落率ワースト1位、2位である。大企業を中心に賃上げの風が吹いた今年の春であったが、厚労省が発表した物価の変動を考慮した実質賃金は22か月連続でマイナスである。日本の企業の98%が中小企業なのだから当然予想された結果である。政府日銀の政策に踊らされはいけないと気を引き締めた。
長生きできるもう一つの要素は「平和」である。戦後70年、日本国憲法は戦争を放棄してきた。先日国会中継を見ていたら、安倍首相は安保関連法制を巡り「内閣総理大臣である私はいかなる事態にあっても国民の命を守る責任がある」「切れ目のない防衛体制を作ることで抑止力を高め、国民の生命と財産をより確かに守ることに繋げたい」と声高に叫んでいた。中国の突出した台頭と米国の相対的後退という東アジアの安保環境の変化にどう対応するかが、安倍政権の課題であり、日本国民にとっても重大事であることは否定しない。しかし、戦後69年間一人の戦死者も出さず平和に過ぎた戦後体制についてもっと学ぶべきことがあるのではないか。なぜそれが可能だったのか。はたして今後持続不可能なのかと。
ニュースとして報じられることはめっきり減ってしまったが、福島では今なお12万人の人々が避難生活を続け、福島原発は事故から4年を越しても原子炉内部の状況も把握されていない。広大な土地が膨大な汚染物質によって埋め尽くされようとしている。それでも、政権は「平然と各地の原発の再稼働」に突き進み、「切れ目のない防衛体制」を作るのだと、戦後日本の平和を根底からひっくり返す法整備に躍起になっている。本当の意味で「国民の命と財産を守るために」緊急に必要なのは、安保関連法制よりも原発を巡る徹底した安全対策や事故処理、そして原発無きエネルギー政策の方ではないかと思うのは私だけではないだろう。
国連が毎年出している「世界の国別幸福度ランキング2013」では、第1位がデンマーク、次にノルウェー、スイス、オランダと続き、アメリカは17位、日本は43位であった。景気が悪いと言われている韓国(41位)の方が幸福度は日本より高い事には苦笑した。
今から約50年前の昭和38年には100歳を超える人は全国で153人であったが、昭和56年に1000人を超え、平成26年9月時点では58,820人となった。こうした長寿者を支えてきたのが「医学の進歩」と「戦争のない平和で豊かな生活」である。医学の進歩は特にこの数年目覚ましく、様々な組織や臓器の細胞に分化できるips細胞を使って視神経細胞を作ることが成功しているし、これが実用化されれば、我が国の失明の大きな原因である緑内障を治すことが出来る。さらに、心臓や腎臓や肝臓などの臓器を作る細胞にまで応用されていけば、臓器移植も容易となり、いつまでも衰え知らずの身体を手に入れられるかも知れない。しかし、どんなに医学が進歩しても平和で豊かな生活が続かなければ長生きできない事もまた真である。
豊かな生活が続くかと言えば、日本は現時点で1000兆円という膨大な債務を抱えている。国民一人ひとりが1000万円借金している勘定だ。日本の国富(資産から負債を引いた国全体の正味資産)は2013年末で3050兆円(1ドル80円として約38兆ドル)であったが、それも最近の円安で約3分の2の26兆ドル(1ドル120円換算)になった。日本の経済規模は最近の政府日銀の金融政策によって3割以上小さくさせられた事になる。最近は株価の上昇も大きく、この5月の決算では企業の業績も上がり、税収が1兆円も増えたと報告されている。しかし、株価が上昇した企業を見るとミネビア、エプソンなど業績そのものが好調な企業であり、政府日銀が煽っている金融緩和や財政出勤の恩恵を受けるはずの金融や不動産関連のJトラストや大京は株価下落率ワースト1位、2位である。大企業を中心に賃上げの風が吹いた今年の春であったが、厚労省が発表した物価の変動を考慮した実質賃金は22か月連続でマイナスである。日本の企業の98%が中小企業なのだから当然予想された結果である。政府日銀の政策に踊らされはいけないと気を引き締めた。
長生きできるもう一つの要素は「平和」である。戦後70年、日本国憲法は戦争を放棄してきた。先日国会中継を見ていたら、安倍首相は安保関連法制を巡り「内閣総理大臣である私はいかなる事態にあっても国民の命を守る責任がある」「切れ目のない防衛体制を作ることで抑止力を高め、国民の生命と財産をより確かに守ることに繋げたい」と声高に叫んでいた。中国の突出した台頭と米国の相対的後退という東アジアの安保環境の変化にどう対応するかが、安倍政権の課題であり、日本国民にとっても重大事であることは否定しない。しかし、戦後69年間一人の戦死者も出さず平和に過ぎた戦後体制についてもっと学ぶべきことがあるのではないか。なぜそれが可能だったのか。はたして今後持続不可能なのかと。
ニュースとして報じられることはめっきり減ってしまったが、福島では今なお12万人の人々が避難生活を続け、福島原発は事故から4年を越しても原子炉内部の状況も把握されていない。広大な土地が膨大な汚染物質によって埋め尽くされようとしている。それでも、政権は「平然と各地の原発の再稼働」に突き進み、「切れ目のない防衛体制」を作るのだと、戦後日本の平和を根底からひっくり返す法整備に躍起になっている。本当の意味で「国民の命と財産を守るために」緊急に必要なのは、安保関連法制よりも原発を巡る徹底した安全対策や事故処理、そして原発無きエネルギー政策の方ではないかと思うのは私だけではないだろう。
国連が毎年出している「世界の国別幸福度ランキング2013」では、第1位がデンマーク、次にノルウェー、スイス、オランダと続き、アメリカは17位、日本は43位であった。景気が悪いと言われている韓国(41位)の方が幸福度は日本より高い事には苦笑した。
私には施設で亡くなった章子さんのおばあさんのように幸せな100歳を迎える自信はない。毎日を精一杯生きるだけだと自分に言い聞かせた。
暑い夏が待ち遠しい。
暑い夏が待ち遠しい。
平成27年6月15日 理事長 森田隆